So-net無料ブログ作成

『西方の魔女』東方視察編:6 [『西方の魔女』]

だいたい月1ペースでの更新になりました。『西方の魔女』第六章です。
今回は前半が第四章のつづきで、後半が第五章の流れを引き摺りながら、漸く合流を果たした...そんな感じです(笑)。
今回の生贄は、ダイアン准尉のようで、実は・・・?
それでは、興味にある方は例の如く、続きを読む、からどうぞ♪


食事ぐらいは仕事を忘れてゆっくり食べたい・・・

普通はそ~ゆ~ものだろう!?


『西方の魔女』 第六章 ~悪戦苦闘なお昼時~

 「・・・そろそろ、昼食の時間ですね。食堂にご案内します。」

 正午が近付く頃、射撃訓練に関するトリヴァー中佐から受けた有意義な指導に、興奮したように頬を染めたままのホークアイが、極上の笑みを浮かべるとそう言って銃を置いた。
 途端に三者三様の反応が、上官を除く西方司令部の面々から挙がった。

 「やった~! 飯だ~v」と、手放しの喜ぶヘインズ少尉。
 「丁度いい按配ですね。」なかなか筋の良いホークアイの銃の腕前を、感心して眺めていたソール中尉の控えめな相槌。
 「う~~っ。」そして・・・最後の一人は、げっそりとしたように唸り声を上げた。

 その最後の一人であるダイアン准尉が、思い詰めた様子で大きなため息を吐くと、上目使いにトリヴァー中佐を見遣る。そして・・・
 「中佐~、今日ぐらいはいいですよね?」
 と・・・何やら必死の形相で、ホークアイには訳の分からない事を尋ねる。よくよく見れば、そのヘイゼルの瞳が潤んでおり、彼の准尉は半ば涙目になっていた。
 「却下。」
 しかしながら、その視線を受け止めた中佐は、事も無げにその部下の願いを切り捨てる。
 「あう~~・・・( 泣 )」
 途端に可哀想になるぐらい、ダイアン准尉が肩を落として俯いた。
 「諦めろよ、フィル。」その様子を目にしたヘインズ少尉が、そう言って苦笑しながらダイアン准尉の紅茶色の髪をかき回す。「・・・まあ慣れるまでの辛抱だ。」
 「・・・他人事だと思って~!!」
 フィル・・・と、そう呼ばれたことで顔を赤くした准尉は、しかしキッとした表情で自分の髪をかき回す上官を睨む ――― が、その行為自体に関しては嫌がっている様子は見えなかった。
 「 ――― そりゃあ、他人事だとも、フィル。」それを目にしたソール中尉が、ほんの一瞬だけ不機嫌そうに顔を顰め、それからにやりと人の悪い笑みをその口許に浮かべる。「第一、俺達も過っては通った試練なんだ・・・イシス中将と共に在りたいと、そう本気で願うならこれだけは避けては通れない道だしな、同情はしないぞ?」
 言われた准尉は、うっ、とした表情を浮かべた後、再び肩を落とし・・・それから、しぶしぶと云った様子で手にしていた装備を片付け始めた。
 その光景をホークアイはやや唖然とした様子で見ていたが、10分後にはその訳を目の当たりにして、ああ成る程・・・と合点がいった。

☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆

 逃げる・・・逃げる・・・逃げる ―――

 「・・・くっ!」

 ダイアン准尉の半ば蒼褪めた真剣な表情・・・そして、その額に浮かんだ汗・・・抑えたながらも思わず零れる声・・・その光景を見るとはなしに目にした東方司令部士官の間に緊張した空気が漂う。
 その日、本来は憩いの場であるはずの一室は、とある一点に於いて異様な雰囲気に包まれていた。
 しかし、それはその隣り ――― 否・・・実際はダイアン准尉を囲むその他の面々 ――― が纏う空気とは、あまりにもかけ離れているが故に微妙なコントラスを放っていた。
 その全くと言っても過言がないほどにかけ離れた空気を纏う西方司令部の面々は、ダイアン准尉の様子に全く頓着した素振りもなく、黙々と食事を続けていた。

 そう、ここは東方司令部士官食堂 ――― 戦場とは違う。

 「フィル、あんまり気負うなよ。そんなんじゃ、食える物も食えないぞ? それに ――― 」
 やがてその様子を、見るとはなしに視界に入れていたらしいヘインズ少尉が、隣りに座した相手に声を掛けた。
 「黙っててください、少尉! 気が散ります!!」
 途端に、ダイアン准尉がそれを一刀両断するかのように声を荒げると、上官の言葉を途中で遮る。
 その行為に、周りにいた東方司令部士官達の表情が、サッと緊張に強張った。
 ダイアン准尉のそれは、いくら今が食事どきとは言え、明らかに上官に対して無礼な対応だった ――― が、しかし言われた相手は別に気を悪くした様子もなく肩を竦めただけでその発言を受け流し、あまつさえ「ヘい、ヘい・・・失礼しました、准尉殿。」と、おどけた様にそう言って苦笑さえ浮かべて見せた。
 ――― いくら休憩時間とは云え、上下関係が厳しいと云われる軍に於いて、それは一種異様な光景だった。
 「くっそ~上手くいかない!」
 そんな周りの様子には全く関心がない様子の准尉は、まるでそれが親の敵かなにかの様に、目の前の『おかず』と左手に手にした『箸』とを交互に睨みつけた。

 ――― 洋食なのに、何故に『箸』――― と云った「突っ込み」は、なしである。

 「なぁ、フィル。アークの言った事もあながち間違いではないだろう?」その准尉に対し、今度はソール中尉が右手にした『箸』を持ち方が確認しやすい位置まで持ち上げ、尚且つ器用に動かして見せながら声を掛ける。 「・・・肩の力を抜け。それから、いつもの手順で基本を思い出せ。いいな?」
 「そう、そう。八つ当たりなら、後でちゃんと相手をして受けてやるから、な?」穏やかな笑顔を浮かべながら、ソール中尉のアドバイスに相槌をうったヘインズ少尉が左手に手にしていた『箸』を置くと、その隣りでム~ッとした様子で膨れる准尉の紅茶色の髪を軽く梳く。「ほれ、もう一回。頑張れよ、フィル?」
 「う~~・・・」
 やがて上官二人の優しい眼差しに、背を押される様にしてダイアン准尉が、再び『おかず』に挑む ――― そうして震える『箸』でどうにか『おかず』を掴むと、漸くパクリ、と『おかず』を口にした。
 「うん、うん。「その調子で頑張れよ、フィル。」」
 それを目にした上官二人が、笑顔で労いの言葉をかける。

 ――― なんと言おうか、それはまったくもって微笑ましい光景だった。
 しかし・・・いつの世も、何事もなくこれで全てが終わる様なら別に苦労はない。
 何故なら、そう・・・お約束とも言おうか。拙いながらもどうにか食事を続ける准尉の『箸』の先から、その時『おかず』が・・・逃げた ―――

 「あ・・・」  「 「・・・ってか、馬鹿!!」 」

 その逃げた『おかず』を追う様にして、ダイアン准尉が咄嗟に利き手である右手を伸ばした。そしてその右手が、転がっていく『おかず』に届こうかどうかと云ったその瞬間 ――― ダン!と鋭い音がして、その『おかず』 は彼らが良く知る見慣れた『モノ』によってテーブルへと縫い付けられていた。

☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆

 「なんだか眠そうだね、少尉?」

 司令部に出頭したハボック少尉に対し、睡眠不足の元凶である所のイシス・ハミルトン中将は、笑顔でそう言うとハボックの顔を見上げてきた。
 ハボックは思わずムッとしたが、誰のせいですか!?・・・とは、流石にここでは言えない。そこで仕方なしに、はぁ~っと、ため息を吐くに留めた。
 こうして、ハボックの長い一日が、この時はじまった。

 まず最初は、東方司令部内の要所への挨拶まわりから始まり、施設内の案内へと続く。
 ここまでは・・・問題ない。
 しかし、二人が演習場へとやって来ると ――― 何故だかそこは、死屍累々とした戦場跡(?)だった。
 「おい、おい、ファルマン・・・お前にしちゃあ、珍しく随分と派手にやったなぁ?」
 ハボックはそう言って、何かを耐えるように額に手を遣りながらその場に佇む、いつになく表情の読み取りやすい同僚に声を掛けた。
 「・・・っつ・・・ハボック少尉!? そんな訳はないでしょう!?」するとハボックの声かけによって、漸くその存在に気付いたヴァトー・ファルマン准尉が、珍しく声を荒げるとハボックに食って掛かってきた。「 ――― ホークアイ中尉が案内してきた西方司令部の中尉が演習に参加したいと言われたので、手合わせして頂いたらこの有様です。少尉は普段、どう云った演習を彼らにさせていたんですか!?」
 「・・・あ~~、やっぱり・・・?」
 同僚の厳しい叱責に、ハボックはガシガシと頭を掻きつつ力なく笑った。
 「ファルマン准尉! ハボック少尉は別に普段手を抜いていた訳じゃあないですよ!!」
 途端に今まで死体のように転がっていた下士官達が、慌てたようにどうにか身体を起こしながら次々とハボックを弁護する様に続ける。
 「相手が、並みじゃなかっただけです!」「そうですよ!」「・・・ううっ、化け物並に強かったです!!」
 下士官達は口々にそう言って、異様な盛り上がりを見せていた。

 ――― う~む、酷い言いようである。

 「・・・おい、おい、お前ら・・・ここにはその中尉の上官がいるのを忘れてないか?」
 そんな彼らの様子にハボックは慌てた様にそう言うと、普段は自分が担当して鍛えている下士官達を宥めにかかる。
 「・・・はぁ? 上官 ――― ・・・って~~!?」
 惚けた様にそう言った下士官達が、えっ? となって周りを見回す・・・と ――― その時、楽しげな様子のクスクス笑いが、ハボックの背後から漏れた。そうして、その背の高い少尉の後ろに彼らの視界から隠れる形で佇んでいた人物が現れた瞬間・・・彼らは固まった。

 そう、そこには小柄で華奢な肢体に見慣れたはずの青い軍服を纏いながら、それでもその裡にハッとさせられるほどの魅力と美しさとを兼ね備えた女性士官 ――― 否、将官が立っていた。
 その何処か猫科の雰囲気を纏った、しかし本来なら油断のならない色を浮かべるはずの翠瞳は、今は ――― 随分と笑いを堪えていたのだろうか? ――― 僅かに目じりに涙を貯めて彼らを見遣っていた。
 その見目は、左目の下を耳に向って走った白い傷跡が在ってさえ尚、容姿端麗、と言って過言ではない。
 「随分と・・・その、うちの中尉が迷惑を掛けたみたいで、悪かったな?」そう彼らに笑いを堪えながら言った美しい将官が、今度はにっこりと笑って続ける。「 ――― まぁ、君らには悪いけど、アーク・・・っと、ヘインズ少尉を投入しなかっただけ、トリヴァー中佐にしては随分と気を利かせた方だと私は思うのだが・・・?」
 「・・・・・(汗)」
 笑顔で ――― だがしかし受け取りようによっては、その実もの凄く怖い事を平然とした様子で ――― そう告げた美しい将官は、陶然としながらも青褪めていく下士官達を楽しそうに見守る。

 ――― じゃあ、その少尉とやらはあの中尉よりも、よっぽど化け物じみてる訳なんですね?

 ・・・っと、彼らがそう心の中で思ったとしても、あの地獄の様な光景を目にしていたファルマン准尉は怒らないだろう ――― と、その場にいた下士官達は一様に思っていた。
 そして、その後 ――― 中尉は射撃の方が専門だから・・・と、漏らした美しい将官に対し ――― 止めておけば好いものの、思わず好奇心に負けた下士官達は彼らの平時の訓練担当であるハボック少尉が必死になって止める様にゼスチャーで合図を送っているのにも気付かず ――― 「では、中将は何が専門なのですか?」と・・・至極尤もな質問をした。
 それに対し、金髪の美しい中将は小首を傾げる様にしてから、僅かに左腕を揺らし・・・それから、答える。
 「えっ?・・・私の専門は『コレ』、だけど?」
 と・・・そしてその左手の中には、いつの間にか一本の鋭利なナイフが収まっていた。それから彼女は『それ』を、如何にも気のない様子で ――― 投擲した。
 タンッ ――― と、小気味の良い音がして『それ』は、彼女の後ろでワタワタと下士官達に合図を送っていたハボック少尉の脇を ――― 金色の前髪を掠める様にして ――― 通り過ぎ、その背後にあった訓練用の射的の中心を的確に刺し貫いていた。
 おおっ!!
 ・・・と、その様子にどよめきの声を挙げながら下士官達が感動する中、ハボックはと云えば・・・まるで自分を黙らせる様にして投擲された『それ』に対し、彼女に向って抗議をしていた。

 「まぁ、今のところ『コレ』で私に勝てるのって『クラブ』ぐらい・・・かな?」

 危ないじゃないですか!? ――― そう言って、自分に詰め寄ってくる愛しい甥を、煩げに手を振って黙らせると、彼女はその甥だけに聞こえる程度の小声でそう漏らした。
 ハボックはその彼女の口から漏れた自分も良く知る『クラブ』について思い起こす ――― と、首を振ってそれを打ち消した。
 そう、確かに『ギル』は強い・・・しかしそれはナイフを扱う格闘戦に於ける強さであり、こと投擲に関して言えば、ここに居る彼女に勝る相手は・・・噂には聞く、今は亡き『スペード』だけだろう。
 やがてハボックは諦めた様にため息を吐くと、下士官達の賞賛の声に応えるイシス・ハミルトンの後ろ姿を苦笑混じりに見守った。

 演習場に於けるイシス・ハミルトン中将閣下は、とても生き生きとして・・・幸せそうだった、と・・・後にハボックはそう口許を引き攣らせながら回想する。
 そして、こうした時間が流れるのは速いモノで・・・気が付けば、時間は既にお昼時である。
 ハボックは、久々に下士官相手に訓練、否・・・身体を慣らした所為か ――― そう、あの後・・・彼らは別の意味での地獄を見た ――― 機嫌の良いイシスを伴い、士官食堂へと足を運んでいた。

 「う~ん、少し予定より遅くなったな?・・・午後は、もう少しペースを上げようか。」
 「あ~(汗)・・・遅い・・・っスか?」
 にっこりと笑って、ハボックの背筋が凍りつく様な発言をしてくれたイシスに対し、ハボックは乾いた笑い声で応じる。
 (ううっ、これ以上ペース上げる気かよ!?)
 ハボックはイシスの言葉に、ホークアイ中尉が予め立ててくれていた午後の予定をザッと頭の中に思い浮かべ・・・当初は詰め込み過ぎではないか? と思っていた中尉の計画が、決して無駄にはなるまい・・・と思い至り、げっそりとした様子で肩を落とした。

 そして・・・食堂に到着したハボックが、その光景 ――― 転がっていく『おかず』を咄嗟に『箸』を持たない方の手を使って止めようとするダイアン准尉の姿 ――― を目にした瞬間に思ったのは、あっ、マズイかも?・・・と云った彼にしては至極当然な内容だった。
 が、それがあまりにも当然過ぎて、その後の展開に反応するのが遅れたのは・・・なにもハボックの所為ではないだろう。
 それ故、その事件はハボックが止める間もない内に起きていた。

 そう、彼の隣りで笑顔を見せていたはずのイシスが、その光景を目にした瞬間・・・彼女の周りに発生した『黒い気配』に、ハボックは咄嗟に反応する事が出来ず ――― 故に気が付けば彼女の手の中に魔法の様に出現したナイフが投擲され、不幸な准尉の『おかず』をテーブルへと縫い付ける事態に ――― 思わず天を仰ぐしかなかった。

☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆

 彼ら・・・否、ダイアン准尉は、その彼らが良く知る見慣れた『モノ』によって目の前のテーブルへと縫い付けられた『おかず』を・・・茫然とした様子で見つめた。
 その直後から、とてつもなく嫌な気配が彼らの背後から生まれ・・・たぶん思考は付いて行かなかったであろう彼らも、しかし身体は慣れたもので咄嗟にその場で立ち上がり不動の姿勢を取った。
 「・・・ちゅ、中将?」
 そんな中、ダイアン准尉はダラダラと、自分の背に冷や汗が伝うのを・・・意識する。そうして、ダメだと分かっていながらも、恐る恐る『黒い気配』の方へと振り向いた。

 案の定、その振り向いた先には・・・口許には一見すると穏やか笑みを浮かべながらも、その美しい翠瞳に剣呑な色を映し出した上官が、禍々しいオーラを背負いながら腕を組んで立っていた。
 やがて、笑みを刻んでいたはずの美しい口許が明確な毒を含んだ問いを発する。

 「フフフフフッ、フィ~ル?・・・あなた、食事時に ――― しかも私の前で、利き腕を使おうなんて、いい度胸よねぇ?」

 あまりのタイミングの悪さに、ダイアン准尉が助けを求めるようにチラリと隣りを窺った。しかし救いを求めた先の面々は、と云えば ――― 直立不動の姿勢から既に彼らの上官に対し隙のない綺麗な敬礼をしており ――― 彼のその視線に気付く様子はなかった...否、避けた。
 そうして、十分すぎるほど不利な状況を把握してから漸く、ダイアン准尉が強張ったようなぎこちない仕種で上官に対し敬礼する。
 ハボックはこの先、目の前で繰り広げられるであろう光景を思い浮かべ・・・密かに標的になるであろう准尉に向って合掌した。

 「まったく・・・私が普段のメニューを抜きにして、お前達を視察だけに集中させている意図を、骨休みをさせている・・・などと勘違いしてる訳じゃあないよね?」彼女はヤレヤレと呆れた様に首を振ると、ダイアン准尉を下から睨みつける様にして覗き込んだ。「 ――― なぁ、フィル。私がお前をここに連れて来た目的・・・忘れてないよな?」
 「イ・・・イエス、マァム。」
 覗き込む様にして自分を見上げながら質問してくるイシスに対し、ダイアン准尉が短く答える。流石に下手にここで弁明して、火に油を注ぐつもりはないらしい。
 「ふ~ん?・・・それにしては、さっきのアレは何?」
 しかし、それぐらいで彼女の機嫌が直るはずもなく、その場を一触触発の危険な空気が漂う。
 その光景を、イシスの背後で見ていたハボックは、いつの間にか士官食堂が異様に静かなのに気が付いた。しかも、なにやら自分に向けられる視線が痛い。
 それもそのはずで、先程まで食事をしていた東方司令部の面々は、あまりの事態に茫然としながらもその場の雰囲気から自分達にまで被害が及ばない様にするかの如く、食事の手を止めたまま固まっていた。
 しかも、何故だか分からないが ――― 否、たぶん唯一その時その場で見慣れた存在であるところの自分に ――― 助けを求める様に視線を寄越して来ていた。

 ――― いや、八つ当たりとか、それは流石に・・・ないだろう・・・と、思う。多分・・・>汗

 そう思いつつ、断言を避ける辺りが、本来のイシスを知るハボックのハボックたる所以である。
 しかし・・・どうにかしろ・・・と云う同僚達からの無言の圧力が・・・痛い。

 「あのぉ・・・中将?」
 それでも確かに、このままでは昼食にありつけない上、その後同僚達から何を言われるか分からない、と判断したハボックは仕方なしにイシスに声をかける。
 「 ――― なにかしら、ジャン・ハボック少尉?」
 途端にイシスが、ニッコリと笑いながらハボックの方を振り向いた。
 その、呼びかけがフルネーム、しかも階級つき・・・と云う辺りが既に、イシスの不機嫌さのボルテージを表していることを知るハボックの口許が引き攣る。
 ( 畜生~!! オレが生贄かよっ!!!??? )
 そう心の中で絶叫しながらも、ハボックはどうにか普段の気のない口振りを保ちつつ言葉を継ぐ。
 「お取り込み中、申し訳ないんスけど・・・オレ、腹が減ったんスよ。午後の予定をこなしたいんで、そろそろ食事にしませんか?」
 次の瞬間 ――― ガタリ バシャン ボトリ ドタン 等々、様々な騒音が食堂内に響き渡った。
 そして・・・おい! その口調は、拙いんじゃないのか!? ――― と云った様子の、至極当たり前の同僚達の無言の叫び。

 「・・・そうね。フィルにはこの後、是非やって欲しい事もあるし・・・」

 しかし、それを聞いたこの場に於ける最上級将官は、ハボックの言葉に僅かに首を傾げ思案する様子をみせると・・・あっさりと頷いた。
 その言葉に、ハボックが思わずホッと息を吐いたのも束の間、それから彼女はハボックが嫌に成る程見慣れた表情を浮かべると微笑んだ。

 ( ちょっと待て、オレにはフルネームで階級つき・・・そのくせ部下には愛称・・・ってことは!? )

 ハボックはその時になって初めて、今までのイシスの口調とこれまでの経過を思い出し・・・嫌な予感に襲われる。
 そして、それを裏づけるかの如くイシスが言葉を継いだ。
 「 ――― その代わり、と言うのもなんだけれど・・・食事の際には、少尉もこちらの流儀に従って貰えるかな?」
 「オレも、っスか?」イシスのその予想外の申し出に、ハボックは思わずマジマジとイシスを見遣る。
 ――― 結局のところ、今回の狙いはそこ・・・なんスね?
 「 ・・・ いいっスよ。」
 ハボックは大きくため息を吐きながらがっくりと項垂れると、それでも素直に従う事にした。何故ならそれが永年付き合ってきたイシスへの対応として経験上、一番冴えた遣り方であることを嫌になるぐらい実感してきているハボックであった。

 ( ・・・いきなり、左手、ってのが拙かったのかな? )

 ハボックは目の前の食事と、既に持ち慣れてしまった観のある左手の『箸』とを交互に眺める ――― と、それから自分の手元を凝視する西方司令部の面々を困惑の面持ちで見返した。
 ここは一つ、お芝居でもいいから上手く使えない振りをした方がいいのだろうか? と、ハボックが真剣に考え始めたその時、彼の真向かいに座ったイシスがハボックのその様子を見かねた様にため息混じりに呟く。
 「 ――― 別に今更ここで取り繕う必要はないぞ、少尉。それより、さっさと普段通りに昼を食べて煙草休憩に付き合ってくれる?」
 「・・・え~っと?」
 イシスの許可に、ハボックがチラリと彼を凝視する面々に向って視線を泳がせながら、僅かに『いいの?』と云った様子の無言の問いかけを発した。
 それに対し、イシスもまた無言で肯定の仕種を与えてくる。
 ハボックはソレを見てとると、ホッとすると同時にそこから、イシスが部下に対し自分との関係をあまり隠す必要性を感じていない、と云う事を見て取った。
 それならば遠慮はいらないだろう・・・と、本当のところお腹が減っていたハボックは、イシスの言う所の『普段通りの食事』を始めた。
 その際、周囲からの視線が妙に痛かったりはしたのだが、イシスの言う通り、今更取り繕う必要もあるまい、と開き直ることにした。
 やがて、それこそさっさと食事を終えたイシスは、食後の一服を吸うためにハボックに喫煙所まで案内するよう声をかけると、何かを訴えるような部下の視線には敢えて一言も発することなく席を立った。

 「・・・やっぱ、只者じゃない、って訳か・・・」ヘインズ少尉のその呟きに ―――
 「・・・・・」ダイアン准尉が綺麗に空になったハボックの皿と自分の皿とを見比べてため息を吐き...
 「ああ、そうだな。」ソール中尉が短く相槌を打つと肩を竦めてみせる。

 そして彼らは、無言で去っていく上司とその案内役の少尉の後ろ姿を複雑な表情で見送るしかなかった。
 そんな中、イシス同様トリヴァー中佐だけが一言も発することなく席を立ち ――― 問いかける様にして見上げてくる三人の部下の視線を無視してその場から姿を消した。

☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆

 「・・・・・つ、疲れた・・・・・」

 ハボックは一日の役目を終えると、ぐったりと自分の机へと突っ伏した。
 結局午後には再びイシスを連れ、射撃訓練所、通信施設、発電所、と云った東方司令部の主要設備を廻ったハボックは、行く先々で散々イシスに振り回される羽目に陥っていた。
 そのくせ当のイシスは、何やらまだ物足りない、と云った様子を見せながら『また明日ね?』と ――― 渋々宿舎へと帰って行った。
 明日 ――― ハボックには明日もまたイシスの案内役として、今度は市内を巡回する予定が入っていた。 しかし、これ以上イシスに付き合っていては身が持たない・・・と、ハボックが真剣に明日の巡回を回避しようと思案していたその時 ―――

 「あら、少尉? ――― 今日の視察は終了したのね、お疲れ様♪」

 ハボックは自分の本来の上官であるホークアイ中尉の、いつになく弾んだ口調に恐る恐る視線を上げた。
 そしてそこに、予想通り至極ご機嫌な様子で微笑む、いつになく幸せそうな上官の姿を認めると、思わず「中尉こそ、お疲れ様でした。」と ――― どう見てもホークアイ中尉が疲れてるようには見えなかったが ――― 反射的に心にもない労いの返事を返す、と言葉を継いだ。
 「 ――― なんかその・・・すごく楽しそうっスね、中尉。」
 楽しそう ――― そう指摘された中尉は『あら、そうかしら?』と云った風情でハボックを振り返る。その頬は興奮のためか僅かに紅潮していた。
 「・・・そうね。ああ、ホントなんて言うのかしら?・・・中佐達を案内していると、知らないうちに何かと勉強になる ――― と云った感じね♪」
 そう言って屈託のない笑みを見せるホークアイを、ハボックは何故だか久しぶりに見た様な気がした。
 だからだろうか・・・『明日も私の代わりに中将の案内をよろしくね♪』――― と、笑顔で告げる上官の姿を前に、ハボックは唯々口許を引き攣らせながらも、その申し出を断ることなど出来はしなかった。

 ( ――― ううっ。い、言えない・・・実は変わって欲しい・・・だなんて!! )

 そうしてハボックは、ニコニコと笑顔で自分の返事を待つホークアイ中尉に向って『も、勿論っスよ。』と ――― 何やら引き攣った様な笑顔を浮かべながら ――― 答えていた。
 ――― まぁ、変わったら変わったで、それはソレで別の意味で辛い・・・か・・・>汗

 ハボックは、今にもスキップでもしかねない勢いで去って行くホークアイの後ろ姿を、再び机とお友達になりながら見送るしかなかった。

                    『西方の魔女』~悪戦苦闘なお昼時~ 終 2004.9.12. 脱稿


『あとがき』と云う名の言い訳

はい。今回の生贄は、ダイアン准尉と見せ掛けて、その実はやっぱりハボックが貧乏くじをひきました。
でも、一応『愛ある』貧乏くじだと信じる華月。
少しずつではありますが、オリキャラ西方司令部の面々のいい性格が前面にでてきてるんじゃないかと思うのですが、如何だったでしょうか?
因みに次回は、イシスさんがダイアン准尉を「連れて来た目的」と「是非やって欲しい事」について書いていこうと思っております♪

    http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=isisu


 *感想などありましたら、ポチリと上記をクリックして下さい。おまけのsssが表示されます。


2007-06-15 10:11  nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:マンガ・アニメ(旧テーマ)

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証: 下の画像に表示されている文字を入力してください。

 
メッセージを送る

このブログの更新情報が届きます

すでにブログをお持ちの方は[こちら]


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。